
リアルタイムqPCRの遺伝子発現の定量方法としてΔΔCt(以下DDCt)法と検量線法がよく使われますが、どちらが良いのかということがしばしば議論されます。
DDCtは増幅効率を考慮に入れないので正確性に欠ける、だからDDCt法など絶対にダメだ、そんなデータなんか信用できない、と考える人もいます。
確かに、DDCt法よりも検量線法のほうが遺伝子発現の定量化における正確性が高いことは間違いありません。
その実験系の増幅効率を考慮しているのですから。
しかし、現実的にはDDCt法であっても、検量線法であっても、基本的にどっちでも問題はないと思います。
(ただし、プライマーのPCR増幅効率が悪い場合や、目的遺伝子とコントロール遺伝子の増幅効率に大きな違いがある場合は、DDCtはおすすめできません。)
その理由について以下に述べます。
自分で試してみればわかります。
遺伝子発現量の高低が群間で逆転したり、平均値の違いが2倍以上で統計的有意差があるような明確な差がなくなったり、逆に有意差がなかったものが出たり、ということはまずありません。
もっとも、遺伝子発現量の差が2倍未満の微妙な差の場合は有意差が消えてしまうということはあります。
平均値の微妙な差が逆転したりということもあり得ます。
ですが、mRNA発現量のそんな微妙な差が、自分の描くストーリーに対して説得力を持っているでしょうか?
たとえ統計的に有意差があったとしても、微妙な
なるほど、mRNAレベルでは1.5倍くらい増えました。
でも、タンパク質は?酵素だとするとその活性は?細胞・組織におけるその遺伝子の機能に対し、その程度の差がどれほど寄与しているのか?
小事にこだわるよりも、westernを行う等、別の角度からストーリーを補強することのほうが重要だと思います。
これは何もDDCt法に限らず検量線法にも言えることです。
例えば、ここにqPCRでbeta-actinを使用して補正した遺伝子発現のデータがあるとします。
そのデータに統計的有意差があったとしても、それは
「群間で遺伝子発現量に統計的有意差が見られました(ただし、beta-actinで補正した場合に限る)」という前提付きなのです。
DDCtで検量線でもどちらでも揺るがないほどの明確な差があるデータであれば問題ありません。
他のインターナルコントロールを使っても、きっと明確な差がでることでしょう。
ですが、もしこれが微妙な差の場合、Gapdhで補正していたら?18Sで補正していたら?
微妙な有意差であれば、他のインターナルコントロールでは再現できないかもしれません。
少し定量方法を変えたからと言って揺らぐことのない現象を見つけること、これが大事だと思います。
少し方法を変えただけで再現できない不確定なデータのみをよりどころにストーリーを組み立てることは避けるべきでしょう。
DDCtか検量線か、そこで迷うよりも、そのデータを補強する別の実験を組むほうが生産的です。